漆の木
漆の木 (植栽、漆搔きと漆器以外の利用法)
漆の木には大きく分類して3つの種があり、それぞれの樹液の主成分は異なっています。中国、韓国、日本で使われているのがウルシノキ(Toxicodendron vernicifluum)で、樹液にはそのうち、最も堅牢で、深い光沢の塗膜を形成できるウルシオールが含まれています。
日本で使われているうるしの97%は中国など海外からの輸入で、残り3%が国内で生産されています(平成28年度統計)。国内産の漆の69%が日本の北部、岩手県北部の森林地帯で生産されています。
漆の木を育てるのには十分な面積と、水はけの良い土壌が必要で、かつ病害虫や野生動物の被害を受けやすく、育てるのも容易でありません。漆の採取もまた難しく、うるしが採取できる太さになるまでにはざっと12年ほどかかります。漆搔き(漆の採取)は6月から始まり、10月末に最後の1滴まで採取された後で木を切り倒します。翌年、根元から育つ新芽の中で良いものだけを選び10年育てれば、12年かけなくても次世代の漆を掻くことができます。
漆搔きは木の幹に対して水平に短い切り傷をつけるところから始まります(辺づけ)。4日後、それより少し長い溝を切り、これを繰り返すことで、漆の木はこれらの切り傷を治すために、より多くの漆液を作る免疫機構を構築します(うるしには抗菌性があります)。漆搔きは、切り傷からしみ出す不透明の薄いベージュ色をした漆液を、傷が治る程度の量が残る程度に丁寧に掻き取ります。この作業は晩秋まで続けられ、できるだけ多くの漆液を掻き取ります。これらの根気のいる作業を数ヶ月続け、1本の木から得られるのはわずか250-300mlの漆液のみです。
うるしは貴重なもので、かつては生産が義務とされ、税として納められていた時代もあったほどです。
ウルシノキには雄の木と雌の木があり、6月にたくさんの小さな薄緑の花を咲かせます。雌の木は蠟を含む実をつけ、江戸時代には漆の種を覆う蠟を使った蝋燭が作られました。種を炒って挽けば漆コーヒーができ、ホワイトリカーと氷砂糖に漬けると漆酒ができます。若葉を油で揚げれば美味しい天ぷらになります。黄色いウルシノキの芯材は草木染めの材料として様々な色を染められるだけでなく、近年、その美しい黄色が木工作家にも人気です。
漆の治癒効果は古代から知られており、韓国では体に刺激を与える効果があるというウルシノキの枝を入れた鶏鍋(オットック)があり、スープがパックで売られているほか、漆石鹸、シャンプー、コンディショナーなどの様々な商品が展開されています。つまり、漆は単なる木ではないのです。