輪島塗について
輪島塗
輪島塗とは、能登半島にある石川県輪島市で作られている漆器のことです。青森県の津軽塗とともに文化庁から重要無形文化財の指定を受けた、日本で最も有名な漆器のひとつです。
輪島塗の歴史
輪島での漆器生産の起源については諸説ありますが、いずれも確証がなく、定かではありません。 輪島周辺に点在する中世の遺跡から出土した漆器に、輪島地の粉を使用した下地の痕跡が見られることや、 伝世する数少ない記録から、室町時代には輪島周辺で漆器作りが行われていたと考えられています。
輪島での漆器作りが発展した主な理由として、近隣にアテ(ヒノキアスナロ、能登ヒバ)、ケヤキ、漆、輪島地の粉など、材料となる素材が豊富にあったこと。 漆器作りに適した気候風土、古くから日本海航路の寄港地として材料や製品の運搬に便利であったことなどがあげられますが、 漆器の生産・販売に携わってきた多くの人々が輪島塗の品質に誇りを持って技術を研鑽し、 今日まで受け継いできたことも大きな理由の一つといえます。
このような背景のを含め、独特の販売方法を普及させながら販路を拡大し、全国に知られるようになりました。
輪島塗の工程
輪島塗は分業制で作られ、その工程は大きく別けて木地、塗り、加飾となります。さらにその中で、 挽物木地、曲物木地、指物木地、朴木地(朴の木を使った彫刻木地)、下地、上塗、呂色、蒔絵、沈金といった分野に細分化されています。この分業体制を基本とし、百以上の工程を経て、完成までには半年から数年の期間を要します。緻密な職能分化によって、熟達した技術と生産効率の追求が図られ、各分野の技は伝統として受け継がれ、守られてきました。
それぞれの職人は自身の仕事に自信を持ち、丹精を込めて仕上げています。その全てを確認し、調整するプロデューサーの役をこなすのが塗師屋です。発注から販売、納品に至るまでを管理しています。各工程の専門職は全ての手作業で妥協することなく、最高の品質を追求しています。
木地
木地は器の用途によって形が異なり、それぞれに適した技法を専門とする職人により作られています。製造工程ではそれぞれの器の形に応じた最適な木の選択が重要になります。どの木を選ぶにしても、伐採後3~5年以上の年月をかけてゆっくり乾燥させた木が使われています。
椀木地(わんきじ)
挽物木地ともいいます。木工ロクロと専門の刃物(ロクロカンナ)を使って椀、皿、大皿、壺などの同心円状の器を削り出したものです。よく使われる木はケヤキ、ハンサ(ミズメザクラ)、トチなどです。
指物木地(さしものきじ)
角物木地(かくものきじ)ともいい、板を組み合わせて作った素地です。最もよく使われるのはアテ、ヒノキ、キリ、イチョウです。重箱、硯箱、膳、盆などが作られます。
曲物木地(まげものきじ)
薄く加工した柾目(木目が縦に通った材料)の針葉樹の板をお湯に浸して柔らかくなってから輪状に曲げ、丸盆、弁当箱などを作ります。アテやヒノキなどの良質な材のみが使われます。
朴木地 ( ほおきじ)
指物木地から分かれた分野です。とくに曲面が多かったり、複雑な形状の座卓や花台の足、酒器の注ぎ口、スプーンなどの素地を彫って作ります。よく使われる材はホオ、カツラ、アテなどです。
漆塗り
輪島塗には独特の塗り技法があります。それは本堅地と呼ばれる伝統的な下地法です。輪島はこの技法にこだわり続け、最高級の漆器を作るための研究を重ねました。そして、輪島塗の伝統として定着させたのです。本堅地では、木地の最も破損しやすい部分に米糊と漆を混ぜた糊漆で麻布を貼り付ける布着せ作業を行います。その後施す漆下地には輪島地の粉を混ぜます。これは良質な珪藻土(化石化した藻類が堆積してできた、軽く柔らかい、吸収力のあるチョークのような石)を焼いたものです。地の粉は断熱性に優れ、漆と混ぜるころで堅牢な下地ができるのです。輪島地の粉は粒が最も粗い一辺地から、次に細かい二辺地、三辺地という順番に塗り、場合によっては最も細かい四辺地を塗ります。それぞれの層は完全に固まってからその都度研ぎ、表面をどんどん滑らかにしていきます。
この下地作業の繰り返しは単に堅牢性のみが目的ではありません。慎重な下地の厚み調整と、下地工程(地付け)ごとの研ぎで、職人は器の完成形と素地の特徴も決めるのです。これは作業の中で大変重要な工程で、どんな失敗も完成品に現れてしまうので失敗は許されません。すなわち高品質の製品を作り続けるには、一定水準以上の技術を持つ職人が常に基準をクリア続けねばならないのです。
上塗は、東洋人女性の髪の毛で作った漆刷毛で、上質の精製漆を塗ります。この時には、湿った漆の上にチリ、ホコリが落ちないよう、細心の注意を払いながら作業を行います。様々な目的に合わせて調合された多くの種類の漆が使われています。漆は季節や気候の影響を受けるので、その場その場で慎重に準備をしなければなりません。上塗り職人は経験と技術の蓄積に基づき、状況ごとに慎重に漆を選び調合し、最高の塗りを行います。