Vessels
うつわ
私は次世代の人間国宝を生み出すことを目指す学校で、伝統的な漆芸と、最高の材料を使う輪島塗の技術を学びました。熟練の漆職人と、現役の人間国宝の先生から、彼らの足跡をたどるような指導を受けました。
通常、輪島塗は工程ごとの分業制でつくられていますが、私はずっと母国に帰るつもりだったので、研ぎや加飾を含む作業すべてを自分がやらないといけないと思っていました。しばらくしてから、全ての作業を自分ひとりでできるからこそ、作業の順序や素材を自由に変えて、自分独自の作品を作れるのだということがわかりました。
ある日、輪島塗の作品を作る作業中、漆を何度も塗り重ねている時のことです。ふと、私が漆で隠してしまった木の美しさは、この後誰も見られなくなってしまうんだなあと気づき、悲しくなりました。お椀や皿を補強する麻布や、下地に使う珪藻土(輪島地の粉)についても同じです。これらの質感の違う材料を使い、漆でできる様々な表現に挑戦し始めました。
また、輪島塗以前の技法、乾漆(かんしつ)や張抜(はりぬき)などを学ぶことも大切だと考えました。古代からこれらの技法を用いて、仏像や宗教的な器物が作られているのです。
私は日々の山歩き、海辺沿いの散歩、我が家の玄関先を流れる川や美しい能登の空などの自然からインスピレーションを得ています。波の曲線、貝殻、葉や花びら、美しい蜘蛛の模様、魚、昆虫、特に私はトンボが大好きです。人間よりはるか昔から地球に存在し、常に前に向かって飛ぶトンボは「勝虫」とも呼ばれ、侍にとっては根性の象徴でした。私はトンボの優美さと完璧さが大好きなので、作品によく登場してもらっています。